お風呂屋さんの日常。

本当の故郷は自分に似ている人に一番多く出会う場所だ。

「身近な街をまるで異国のように旅してみる」、『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(谷頭和希 著)

 私たちの生活はチェーンストアに取り囲まれている。にも関わらず、私たちのチェーンストアへの一般的なイメージは以前とそれほど変わっていない。そのイメージの解像度を高めていき、ステレオタイプを解体し、新たなイメージへと再構築していくこと。それが本書の目的のひとつだ。

 その目的に達するために、「チェーンストアが世界を均質にしている」という一般的なイメージが本当に正しいのかという問いが立てられている。

 実際のところ、「チェーンストアは手軽で便利である反面、個別性を薄めて均質化を進めている」というイメージは、もはや時代遅れのものになりつつある。著者はその違和感と向き合いながら、自らの経験とフィールドワークを通じてイメージのアップデートを試みている。

 本書を読み進めていくにつれて、チェーンストアに関する自らのステレオタイプなイメージと向き合うことになるだろう。はじめに持っていたチェーンストアのイメージが、少しずつ変化していくのを体験できるのも本書の魅力のひとつだ。

 著者の「都市をおもしろがる」作法は、旅の楽しみ方にも似ている。身近な世界を旅すること。私たちが暮らしているこの場所を、まるで異国を旅するかのように面白がること。

 これは未だコロナ禍の続く私たちにとって、この日常を楽しむために必要な作法でもあるのかもしれない。